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長野地方裁判所諏訪支部 昭和45年(わ)45号 判決

被告人 高松善次こと高瀬渉一

昭二三・八・二七生 艶歌師

主文

被告人を懲役一年に処する。

ただし、この裁判の確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

被告人を右猶予の期間中保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四一年四月ごろから、諏訪市内の信州芸能社(経営者は斎木昇)に所属して、艶歌師としてギター流しをやつているところ、日ごろ性短気にして、些細なことに敏感に反応を示して興奮したうえ、暴力行為に及ぶ習癖を有し、昭和四四年四月三〇日、諏訪簡易裁判所で暴行、傷害罪により罰金二五、〇〇〇円に処せられたほか、傷害罪により検挙歴二回を有するものであるが、さらに常習として

第一、昭和四五年七月四日、客からバンド演奏を依頼されて、同僚とともに、諏訪市内の紅屋ホテルと湖畔ホテルに出かける予定であつたため、得意先の中山タクシーに対し早くから二台のタクシーを予約していたのに、予約時間が迫るのにタクシーが来ないので、同市湖岸通り五丁目九番五号、信州芸能社前路上に出て待つていたところ、同日五時五〇分ごろ、一台のタクシーが来たので、無線でもう一台のタクシーを手配して貰い、間もなくもう一台のタクシーが来たものの、時間が接近していらいらしているのに、右タクシーが転向したり、バツクしたりして、手間どつていたので、同所において右タクシーを運転していた運転手の海野清一(当三七年)に対し「何んだ遅いじゃねえか、何で真直ぐ来ないんだ。」と怒鳴りつけると、同人が「俺は何も知らん、配車されたとおり来たんだ。」と返答したところ、その返答の仕方等が人を馬鹿にしたような態度であつたと感じとつて、激昂したうえ、同人に対し「何をこの野郎」と申し向けて、いきなり同人の顔面を手拳で一回殴打し、よつて同人に対し加療約一〇日を要する顔面(特に眼部)打撲傷の傷害を与え

第二、さらに引き続き、同所において、前記海野の同僚でもう一台のタクシーを運転していた運転手の渡辺優(当四二年)が前記第一の様子を目撃して、被告人に対し「何も知らないで配車されて来たものを、いきなり殴るとはひどいじゃないか。」と注意したのに激昂し、いきなり同人の顔面、頸部等を手拳で数回殴打し、よつて同人に対し加療約一〇日間を要する頸部、顔面各打撲の傷害を与え

たものである。

(証拠の標目)(略)

(常習性を認定した理由)

弁護人は、被告人につき暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ三の常習性を争うところであるが、同条にいう常習とは、同種の犯罪を反覆累行する習癖を有する者が、その習癖の発現として、さらに同種の犯罪を犯した場合をいうのであつて、単に被告人が過去において数回の犯罪歴を有するだけではこれにあたらないこと明らかであり、またたとえ今回の犯行が被害者側の落度によつて誘発されたものであつたとしても、右習癖の発現としてなされたものと認められれば、やはり常習性を肯定すべきものと解するところ、本件においてこれをみるに、前掲各証拠によれば、被告人はもともと性格的に短気で、日ごろ些細なことに激昂して、暴力行為に及ぶ習癖が認められるうえ、判示の各犯行の間にそれぞれ行為態様の類似性が認められる。加えるに、判示冒頭事実および前掲各証拠で認められる被告人のこれまでの非行歴、犯罪歴における各行為の態様並びに被告人は、昭和四一年八月、長野家庭裁判所諏訪支部において傷害罪により中等少年院に送致されて、矯正教育を受けたが、その間における暴言、暴力行為(これを理由に訓戒、謹慎の各処分を受けて、被告人はその後特別少年院に移送された。)の内容との関連性をあわせ考えると、本件犯行の動機において被害者側にも多少の落度があつたにせよ、被告人はかかる暴力行為を反覆累行する習癖を有し、かつ本件各犯行は、その習癖のあらわれとしてなされたものと認められるから、判示各行為は被告人が常習としてなしたものと認定するのが相当である。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示各所為は包括して暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ三前段、刑法第二〇四条に該当するので、所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、本件犯行の動機には被害者側の落度がうかがえること、すでに各被害者に対し治療費、休業補償費等を支払つて、示談が成立し、被告人も現在相当反省していること等の諸般の情状に鑑み、同法第二五条第一項第一号を適用して、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予し、なお同法第二五条の二第一項前段により被告人を右の猶予の期間中保護観察に付することとする。

よつて主文のとおり判決する。

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